小さな命があふれる高尾山。
草木も、動物たちも、微生物たちも、石も、土も、水も、
移ろう四季のなかで、生きて死んで、また生きて、ぐるぐる巡る森。
そんな高尾山をトンネルなんかで傷つけたくなくて、私たちは、思いつくこと、できる限りのことすべて取り組んできました。
日本は「アクティビスト」は、敬遠される不思議な国。
きっとアクティビストは、何に対しても「反対!」ばかりする活動家たちというイメージを持たれているからだと思います。
本来のアクティビストとは、「反対!」を叫ぶ人ではなくて、何かを実現するために行動する人のこと。その時に必要だと思える行動ができる人のことだと思います。
私たちは、デモが必要ならばデモを、フェスティバルが必要ならばフェスティバルを、ネイチャーガイドが必要なら…と運動の形態にとらわれることなく取り組むべきだと考えました。
そのため、虔十の会の活動は多岐にわたります。
高尾山を守ることに繋がると思えば、経験がなくても躊躇なく行いました。
大きな天狗神輿を担いだデモやパレード、天狗裁判、八王子市長選挙運動、何度も開催した音楽イベント「高尾山天狗フェスティバル」、今も続けているアウトドアイベント「高尾山天狗トレイル大会」、ツリーハウス作り、8か月にわたる山中での座り込み、ネイチャーガイド、300回を超えるトークイベント…
高尾山を守らなければならない!と思ったからこそですが、自分たちが正しいと思う事を独りよがりに人に押し付けるようなアクションはしたくありませんでした。
デモでは心が届かないなぁ…と悩み「高尾山にトンネルを掘らないで」と可愛くデザインされたTシャツを1000人が来て山を徘徊するイベントをしたり(当時は本当に1000人集まったのでビックリ!)、登山に興味がない人にも高尾山に足を運んでもらい、自然を五感で感じてトンネルを掘っていいか、山を守りたいか考えてもらうにはどうしたらいいか…と頭を悩ませ、ツリーハウスをセルフビルドで作ったり(延べ500人が参加)、ツリーハウスで、音楽LIVEやトークLIVE、お茶会、オーガニックパーティ、詩の朗読会、野外上映会等々、さまざまなイベントを開催してみたり。そんなアクションを通して、本当にたくさんの人が訪れ、高尾山の大切さを身体で感じてくれました。
とにかくチャーミングなアプローチをすることで気軽に現場に来てもらい、高尾山にトンネルを掘ってしまっていいのか、みんなで考え、ひとりひとりが、自分で答えを出してほしいと思ったのです。
高尾山をめぐる状況がどんどん厳しくなり、八王子市長選も追い上げたものの残念ながら敗退。トンネル出口(今の高尾山インターチェンジ周辺)の共有地で非暴力直接行動をするしかない状況が訪れました。こんな厳しい時こそ、こぶしを振り上げるのではなく、逆にもっともっとチャーミングなアクションをしよう!それが私たちの考えでした。
そもそも自分たちの土地であっても国定公園内なので、地面の上に建築物を勝手に作ることはできません。圏央道の巨大な橋脚やトンネルはOKなのに…
ならば、木の上で座り込みをしよう!と決断。「座り込み」というシビアな直接行動であっても楽しく人が集うことはできないか?と考えたあげく、建設工事が休みの日曜日、約30人が力を合わせ、たった一日で木の上に座り込みのデッキを作ってしまいました。
それが「和居和居デッキ」。呼びかけの言葉は、「工事だよ、全員集合!!」。
和居和居デッキでは、連日ミニイベントが開催されました。ラビラビはじめ、たくさんのミュージシャンが協力してくれて音楽LIVEは数えきれないほど行いました。女流落語家として日本で初めて真打になった古今亭菊千代さんの落語会、キャンドルじゅんさんによるキャンドルナイト、フラダンス、ベリーダンス、ファイヤーダンス…
デッキはその名前どおり、毎日ワイワイと人が集まってくれる場所になりました。そこで楽しんで座ることが大事なアクションになったのです。
山中の小さな沢沿いの杉の木の上はいつも賑やか。水道なんてないので沢水を飲み、暖を取るのは炭こたつ、電気は自家発電。そんな場所でも、たくさんの方が、カフェに寄るような気持ちで訪れ、こたつに入り、全国から送られてくる差し入れを食べながらワイワイ談笑。「ここに来るとなんでこんなに楽しんだろう?」と言ってくれるような不思議な座り込みアクションでした。
参加者が延べ3000人を超えた頃、和居和居デッキは、強制収用されます。
最初、国交省は「自然公園法違反だ!」と言ってきました。「どうぞ訴えてください。こんなに小さくて可愛いデッキが自然公園法違反で、私たちの頭上にそびえる高速道路の橋脚は問題ないのか?と全国の人が考えてくれるから」と答えると、次には「道路交通法違反だ!」とのこと。まだできていない道路の交通を邪魔しているってどういうこと???弁護士さんは、「ありえない!」と笑っていたぐらいですが、なんと裁判所が承認してしまい、和居和居デッキは危機を迎えます。
バリケードを作ろう!となった時、強固な物を造るのではなく、壊したくなくなるほど美しいバリケードを作りたいと思いました。竹を使った空間アーティスト三橋玄さんが、相談にのってくださり全面協力。「白いドリームキャッチャーを作って送ってください!」と全国に呼び掛けるとたった一週間で300個を超えるドリームキャッチャーが、私たちのもとに集まってきました。私たちに贈るためドリームキャッチャーを作るワークショップまで開催してくれた人たちもいました。
その日から和居和居デッキは、白い繭のように、みんなが作った白いドリームキャッチャーで美しく囲われ、夜になればキャンドルじゅんさんがプレゼントしてくれたたくさんのキャンドルがいっせいに灯り、幻想的な空間を作り出してくれました。
私たちを監視している作業員たちが、「きれいだなぁ…」と何度もつぶやいていたことがとても嬉しかった。
それでも、強制代執行の日はやってきました。
私たちは、女性が全面に出ることにしました。
その名も「きれいなお姉さんVS国交省作戦」!男性たちは後ろに下がってもらい、女性たちは「きれいなお姉さん」になるために、着替えたりお化粧したりと忙しく、男性たちは「何だか羨ましい。俺も化粧したいなぁ」とぼやいて笑いを誘っていました。強制代執行の朝を迎えても和居和居デッキのまわりでは、笑い声があふれていたのです。
白い繭を撤去しようと取り囲む大勢の作業員や国交省の人たち。
「撤去します。すぐに出なさい!」とマイクでがなりたてる声。
朝の全国ニュースで強制代執行を知った多くの人々が、現場に向かってくれましたが、和居和居デッキに至る道は封鎖され、「なぜ通してくれないんだ!」と怒声があちこちに湧き起こり、あたりは騒然。道が通れないので山を登りデッキに来てくれようとしている人もいました。
デッキに立てこもる私たちは、中に入れない人たちが心配でたまらず、あまりに暴力的な国交省のやり方に怒り心頭に達しようとしていたその時、作業員に押し戻され騒然となっている山の中から、よく座り込みに来てくれたあるミュージシャンの歌声が聞こえてきました。
その一瞬、怒りの声が鎮まり、静けさがおとずれました。
スーと高尾山の風が吹いたような気が今でもします。
和居和居デッキはもう今はありません。そこには、巨大なトンネルが口を開け、草木を押しつぶした橋脚が何本もたっています。沢沿いに咲いていたタマアジサイもニリンソウももうありません。
そんなことがあったことを知るはずもない人々の車が何台も通り過ぎるだけ。
それでもあの谷間にあった白い繭、和居和居デッキは、私たちをアクテビィストにしてくれました。「高尾山トンネル反対運動」はなくなりましたが、私たちが守りたかったのは、「反対運動」ではなく高尾山そのもの。
ここが奪われても高尾山は奪えない…
今の私たちの取組みは、あの白い繭や山中から響いてきた歌声の延長にあります。
おなかに大穴を開けられても豊かな生物多様性を育み続けてくれる高尾山を守る行動は、まだまだ続きます。
いつの日か、あのトンネルの中が草木に覆われ、生き物たちの通り道になり、どこからか天狗の笑い声が聞こえてくる時まで、あいかわらず、私たちは、思いつくかぎりの事を行って山を守ろうとするアクティビストです。